私がバイトしている和菓子屋さんには、週3、4回来てくれる常連さんがいる。
顔に傷があって、ちょっと、いやかなり強面な男の人だ。
そんな人が、週に何度も訪れては、うちのおはぎを買っていく。
いや、うちのおはぎはめちゃくちゃ美味しいけど。強面とおはぎ、妙な組み合わせだ。



そんな彼は、今日もしっかりおはぎを4個お買い上げ。





「お待たせしました!いつもありがとうございます」


おはぎを手渡すと、こちらこそ、と言って頭を下げてお店を出て行った。
見かけによらず、と言ってしまったら失礼だけど、実は礼儀正しかったりする。
見た目とのギャップに、私はちょっと萌えてしまうようになっていた。















今日はお店は臨時休業だ。
職人でもある店長の腰痛が悪化してしまったのだ。
お店は大学の帰り道にあるので、心配になって様子を見に行くことにした。



「あれ?」

店に着くと、見覚えのある男性が店の前に立っていた。
いつものあの人だ。臨時休業の貼り紙を凝視している。
声をかけると、少し驚いた後、私に聞いてきた。


「今日は休みかァ」
「はい。店長が腰痛で・・・。うちの和菓子、ほとんど店長が作ってるので、止むを得なく。すみません」
「そうかァ」


そう言った顔が、あまりにも残念そうに見えたので、とても申し訳ない気持ちになってしまった。

そしてふと、妙案が浮かんだ。



「あの、もし嫌じゃなければ、私のおすすめの違う和菓子屋さんがあるんですけど、お教えしましょうか?」
「はァ?」
「あ、いやあの、バイト先以外のお店をお勧めするのもどうかと思ったんですけど、その、すごく残念そうな顔をされるので・・・。でも、私昔からすごく和菓子が好きで、だからここでバイトしてるんですけど、他にも美味しいお店知ってますし、そこのおはぎも絶品ですから!」


余計なお世話だったかな。
不安になって、ちらりと窺うと少し考えるような仕草を見せた後、口を開いた。


「本当に美味いんだろォなァ」
「え、あ、もちろんです!私が保証します!!」


勢いよく答えると、よし、と言って携帯を取り出した。


「店の名前教えろォ」
「あ、はい、こっちです。電車乗りますけど、いいですか?」
「問題ねェ・・・ってちょっと待て。一緒に行く気かァ?」
「はい、ちょうど帰り道なんで」

そう言うと、なんだそりゃァ、と笑われてしまった。


ヤバい。笑った顔、初めて見た!どうしようカッコいい!
顔が赤くなって、ドキドキしているのが自分でも分かった。


「なんだァ、ついでかよ」
「え!?ち、違いますよ!むしろこっちがメインです!」
「わかったわかった。ほら、さっさと行くぞォ」


さっさと歩きだしてしまったので、慌てて付いて行った。
待ってください、と言おうとして、ふとまだ名前を聞いていないのを思い出す。



「あ、あの、すみません。自己紹介が遅れました。みょうじなまえといいます。向こうの産屋敷大学に通ってます」
「あァ。そういえば名乗ってなかったなァ。不死川実弥で、キメツ学園の教師だァ」




せ、先生だったんだ。
不死川さん。妙にギャップだらけのこの人に、なんだかドキドキして、もしかしてこれは?と心をときめかせた。



そんな何かの予感を感じながら、私は不死川さんとお店への道を急いだ。







これは、バイトが一層楽しみになりそうだ。




















配布元「確かに恋だった」